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十代の少女から見た政治を描く『天山の巫女ソニン』

天山の巫女ソニン 1 金の燕

以前に紹介した『黄金の王 白銀の王』が、ファンタジー要素皆無の大人向け架空国家政治劇だとすると、これから紹介する『天山の巫女ソニン』は、ファンタジー要素がスパイスに使われた児童向け架空国家政治劇です。

どのへんが児童向けかというと、まず視点人物が少女ソニン(初登場時12歳)であるということ。巫女として育てられ夢見の才能があるが、年ごとに衰えたために俗世に戻された特殊な少女ではあるのですが、階級社会ではあり得ない「知識や知恵を持つが俗世の欲を持たない良い子」という語り手として理想的な設定だと思います。

それから、視点人物が少女である以上に表現が平易であること。舞台となる沙維・江南・巨山は、おそらく朝鮮半島の三国時代(新羅・百済・高句麗)をモデルとしているのだと思うのですが、時代性や地域性を感じさせる描写がほとんどありません。たとえば王女の衣装を「襦裙」と言い切ってしまうのも可能なんでしょうが、わかりにくい用語の雰囲気で異国情緒を出すのではなく、理解しやすい言葉をあえて選んで使うところは「大人だまし」ではないと感じました。

もちろん「子供だまし」でもありません。第3巻『朱烏の星』で描かれる、それまで「野蛮な敵国」だった巨山は、(当時としては)高度な科学技術と、人心掌握術に優れた王が治める国家であり、第4巻『夢の白鷺』では、江南の暴風雨災害に援助する巨山と沙維の思惑が表現され、決してきれい事ではない政治というものを見せつけてくれます。その一方で、まだ若い次世代の指導者候補たちが、若いが故に非常に徹しきれない甘さを出すはめになるなど、「政治小説」とも言えない微妙な立ち位置を作り上げています。

第1巻『金の燕』と第2巻『海の孔雀』は、まだ寓話色が強いですが、ソニンの夢見の力が失われるにつれ、地に足ついた物語になっていっているように思います。5巻はいつ発売になるのか、楽しみでなりません。

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